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紫色の月光

紫色の月光

第三話「怪盗イオ」

第三話「怪盗イオ」



<某大手銀行>


 銀行内にサイレンが鳴り響く。頭に響きそうな音で警備員達を動かせるその音は外にまで漏れ出すほどの騒音だ。
 そしてそんなサイレンが鳴り響く中、一つの影が廊下を駆ける。

「いたぞ、あそこだ!」

 その影を見つけたと同時、警備員は一斉に発砲を開始する。しかしそれでも影は止まることを知らない。
 まるで銃を恐れていないかのようだ。

「……展開!」

 駆ける影が呟くように言うと同時、彼の周囲に突然棒が何本も飛び出してきた。それは出現と同時に一瞬にして彼を囲い、まるで防御壁のように銃弾を弾いていく。

「くそ! 何で銃が効かないんだよ!?」

 警備員がそう叫ぶと同時、彼らの目に影の姿が明確に映し出される。
 青い仮面を装着しており、自身の周囲にまるで螺旋階段のように棒を浮遊させているこの男の名は有名である。

「か、怪盗イオ―――――!!」


 ○


<後日 宿の一室>


 旅館の一室で目を覚ました快斗は今日の朝刊に目を通す。そこの見出しにはこう書かれていた。

『怪盗イオ、大手銀行****銀行で金庫室に侵入。現金数百万円が盗まれる!』

 怪盗イオ。その名前には聞き覚えがある。
 結構前から噂になっている大泥棒の名前で、過去に刑務所に侵入し、そのままその刑務所から無事に帰ってきたという奇妙な経歴持ちの男である。

「……マーティオか」

 そしてその男の名はマーティオ・S・ベルセリオン。青の長髪と瞳が印象的な青年で、トンでも機能満載な大鎌を持っている。

 そして何より、快斗の友人でもある。

「いや、懐かしいな……あの野郎、相変わらず元気そうだな」

 数ヶ月前にパチンコ屋でばったり会って、それから全く会っていなかったのだが、それでも向こうが何ら変わりなく活動している事が分っただけでも喜ばしい事だ。

「……あ、神鷹さん。おはようございます」

 すると、横から眠そうな声でリディアが話し掛けてきた。どうやら起床したばかりのようである。

「おはようさん。……丁度良いや、テレビつけてくれないか?」

「あ、はい―――――ポチっとな」

 リディアは何故かくるりと一回転してからテレビのスイッチを入れた。そしてこれを見たカイトは思う。

(アニメの見すぎだな)

 しかもこの短期間で振り付けを憶えるとはどんなに真剣に見ていたんだろうか。この真剣さをもっと別の方向へ役立てられない物なんだろうか。
 そんな事を快斗が考えていると、テレビのニュースである出来事が放送された。

『えー、先ほど入ったニュースです。先日銀行強盗を行った『怪盗イオ』が、今度は宝石店での犯行予告を行ったとの事です』

 それを聞いた快斗は思わず新聞からテレビに目を移した。

「おいおい、二日連続で盗みをするつもりか?」

 その言葉には、呆れと言う感情が篭っていた。


 ○


<午後11時30分 ****宝石店>


「犯行予告時間まで後………5分か」

 警備員が腕時計を見てぼそり、と呟いた。
 今、彼らは怪盗イオのターゲットであるルビーがある一室の警備に当てられている。馬鹿でかい金庫室に銃を装備した警備員が20名もいるのだ。これでは近寄る事も出来はしないだろう。
 幾ら相手が名高い泥棒とはいえ、所詮は人間。銃弾をマトモに喰らえば無事ではすまない。

「でも、そんな所を毎回突破して盗みをしてるんだよな……」

 正直に言えば恐い。
 何せ、向こうはたった一人で幾つ物盗みを成功させているのだ。そんな未知の相手がもう直来ると思うだけでびびってしまうわけである。

「おい、何をびびってるんだ。お前」

 すると、そんな彼の震えに気がついた彼の先輩が話し掛けてくる。

「あのな、相手だって人の子だ。それでこの人数を相手に無事で帰れるはずが無いだろう」

「そ、そうですよね……」

 でも、そんな所を毎回突破してるんだよな、と彼が思うと同時、室内に犯行予告時刻が来た事を知らせるサイレンが鳴り響いた。

 それと同時、隣から――――金庫室から轟音が響く。

「な、何だ!?」

 警備員の一人が思わず金庫室をあけて中の様子を見る。
 すると、そこにはあるはずのルビーが無かったのだ。その代わりとでも言わんばかりに存在しているのは巨大な穴である。

「しまったぁ! 奴は下から直接奪いに来たぞ! 全員、直ちに―――――」

 そこまで言いかけた瞬間、警備員の一人が突然吹き飛んだ。
 いや、正確に言えば『吹き飛ばされた』のだ。突然この部屋に現れた者の手によって。

「な、何だ!?」

 その言葉に反応するかのように周囲にいる20人の警備員は次々と吹き飛ばされる。
 しかしそこで疑問に思えるのが一体、この場で何が起きているのか、だ。
 見たところ、この場に自分たち以外の人間はいない。つまり、これは怪盗イオの仕業ではないと言う事だ。しかしだとしたらますます疑問だ。

「くそ、一体何が――――」

 そこまで言いかけた瞬間、彼は見た。
 自分の目の前に突然『手』が現れたのだ。
 そしてその手が唸るようにして彼の目で吼えた。


 ○


<****銀行 二階廊下>


 廊下の中を一つの影が疾走する。
 青の仮面に黒のロングコートを羽織ったその男は世間から怪盗イオと呼ばれている泥棒である。そして彼の手の中には今回のターゲットが握られていた。

「へっ! ちょろいな!」

 イオは常人から見れば考えられないスピードで廊下を走っていく。幸い、警備が三階に集中していたお陰で二階は手薄だ。

「逃げるにはもってこい……ってな」

 正しく大チャンスだ。此処で逃げないのなら何時逃げるのだ。いかに彼が戦闘に自信があっても、何時までも此処にいるつもりは無い。
 
 しかし、そんな時だ。

 突然、彼の目の前に青髪の青年が姿を現したのである。しかも着ている服装からして警備員ではない。

「お前が噂の怪盗さんか」

 青髪の青年――――ライは静かにイオに問うた。

「いや、貴様の発言は間違っている」

「何?」

 予想外のその言葉に思わずライは反応する。こんな怪しい格好をしたこの男が怪盗でないなら一体どんな奴が怪盗だというのだろうか。

「いいか、俺はマジシャン兼泥棒だ。そこいらにいるただの泥棒と同じにしないでもらおうか」

 奇妙な拘りだ、とライは思った。

「まあ、それはそれでいいとして、だ。そいつは返してもらうぜ」

「何? 見たところ警備員じゃなさそうだが……」

 実の話、ライは此処最近この男に好き勝手されている警備員が情けなくてこの場にやってきたのである。そしたら案の定、又してもこの男の前にターゲットを盗まれているではないか。
 
「まあ、単にお前が好き勝手にしているのが気に食わなくてな!」

 そういうと同時、ライは疾走する。その常識ハズレのスピードは正にR・J社のエリートの中のエリートである。

「HUMか。……流石に人間じゃないだろうな」

 しかしイオは恐怖心と言う物が全く無い。そんな彼の右手に握られたのは強烈な閃光弾だ。それはライに向かって勢いよく投げつけられる。

「!?」

 閃光が弾けた。それは一瞬ではあるがライを怯ませるには十分である。

「あーばよー」

 イオはその一瞬の隙をついて逃げていた。ぶっちゃけてしまうと戦うのが面倒なのだ。此処でライと戦うよりだったら普通にオサラバしてしまえ、と考えたわけである。

「あ、野郎!」

 まさか普通に逃げ出すとは思わなかった。しかも向こうは常識ハズレのスピードで移動している。本当に人間なのか疑わしくなる物だ。

「ちっ、逃がすか!」

 それを追うためにライは再び走り出す。閃光は既に収まっている。今なら邪魔する者は誰一人としていないのだ。

 しかし次の瞬間、突然彼の目の前に『手』が出現して唸りを上げた。

「!?」

 その恐るべき異常現象を前にして、彼は後ろに跳躍。それと同時、彼が先ほどまでいた場所が何かに押しつぶされたかのように吹き飛んだ。

「誰だ!?」

 流石に怪盗イオの仕業とは思えない。見た限りではこんな人間とは思えない芸当を出来るのはHUMや人間ではないと判断したのだ。

 そしてそんなライの言葉に反応するかのように異常な出来事は続く。
 手の先がまるで組み合わさっていくパズルのように出現し始めたのだ。そして10秒もしない内にその正体が明らかになっていく。

「な――――――!」

 その姿を見て驚いたのはやはり他ならぬライだ。何故なら、この異常な現象の中現れたその男に見覚えがあるからだ。

「リオン!」

 行方不明になった時と同じ黒の服装。間違いなくそれはリオンだった。
 しかし、一体何がどうなっているのだろうか。以前のリオンにこんなことはできないはずだ。
 そして何より、一番変化したのは彼の瞳だった。

 まるで狂気がヘドロのように濁って見えるのである。これでは麻薬の常習犯だ。

「リオン、何があった!?」

 そしてその異常さに気付いたからこそライはリオンに身構えている。ちょっと怪盗を懲らしめてやろうかと思ったらとんだ拾い物をしたものである。

「…………」

 そして一方のリオンは沈黙をもってしてライに返答をした。つまり、答える必要は無いと言う事だ。

「くっ……!」

 その瞳から放たれる異常な狂気と殺意は対峙しただけで感じ取れる。それを感じ取った彼はこう思った。

(こいつ、本当にリオンか!?)

 まるで、リオンの姿をした、何か別の生物のようだ。
 
 そう思った瞬間、リオンが突撃してきた。スピード違反のそれはまるで新幹線だ。

「くっ!」

 目の前にいる物体はリオンじゃ無い、とライは思った。性能が飛躍的にアップしているからだ。この短期間であそこまで狂った例は見たことが無い。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 リオンが吼えながら向かって来る。その右掌から発せられるエネルギーは目で見ることが出来ない力に他ならない。

「ぐ―――――!」

 その見えない衝撃を辛うじて防御する事に成功したライ。その後彼が行う行動は唯一つ。隙をついて攻撃する事だ。

「―――――――!?」

 しかし次の瞬間、突然彼の背後から彼の身の自由を制する動きが生じた。しかもリオンではない。彼はライの視界の中に――――彼の前方にいるからだ。

 それならば一体誰が?
  
 その答えはすぐに判明した。後ろにいる男の声で、だ。

「二人でかかることになるとはねぇ……!」

 こちらも狂気で元の人物とは考えられなかったが、その声の主は一人しかいない。

「イグル……!」

 その正体はリオン同様に行方不明になっていたイグルであった。普段はクールなイメージを持つ彼も、これまたリオンと同様に狂気と殺意が入り混じって元のイグルとはかけ離れた存在に見えた。

「ほう、動きを封じられているにも関わらず、此処まで動くか……気に入った。貴様の体、頂くぞ」

 イグルがそういうと同時、彼の右手がライの口を抑える。そこから不気味に発せられるのは紫色のオーラだ。
 リオンやイグルから感じる事が出来る狂気や殺意が全てこの紫色のオーラから発せられているのを感じる事が出来る。そしてそれはライの体の中に強制的に流れていった。まるで止める事が出来ない川の流れのように。

「―――――――!!!!!!!??」

 その瞬間、ライは今までに感じた事が無い感覚を得た。それは例えるなら全身の血液が毒で満たされるかのようなざらついた感覚。
 全てがひっくり返るかのような感覚を得たライの意識はそのまま闇の中へと消えていった。

「…………」

 数秒した後、イグルがゆっくりとライの身体を自由にした。もう制する必要性が無いからだ。

 次の瞬間、ライの瞳がかっと見開かれる。
 その瞳は、確かな狂気と殺意が入り混じった、とても汚い色だった。


 ○


<****銀行外>


 怪盗イオことマーティオは既に外へと脱出していた。あの青髪の青年、ライが追いかけてくるかと思っていたが、追ってこないところを見るとどうやら撒く事に成功したようだ。

「………もう少し粘ってくるかと思ったけどな」

 マーティオはちら、と銀行を見る。
 本当にあの青髪の青年の気配は感じられない。

(はて、あの程度で怯むとは思えないんだがな……)

 彼がそう思うと同時、突然銀行が炎上し始めた。
 爆発にも似た轟音が響くと同時、銀行の炎はドンドン広がり始める。

「な、何だ!?」

 彼は思わず周囲にいるマスコミや警備員と共に熱気をガードする。
 しかし彼の視界は確かに見た。

 炎をバックにして映し出される不気味な黒のシルエット。そこに映し出されたのは、まるで悪魔の様な異形の影であった。





第四話「宿敵、再び」


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